バスキュラーアクセス

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バスキュラーアクセス(Vascular Access)について

 血液透析を行う場合、それまで24時間365日働いてきた腎臓の働きの代わりを週3回約4時間で補うべく、効率よく行うために比較的大量の血液(1分あたり約200mL)を出し入れするルートが必要になり、その際の患者様側のアクセスルート、つまり血液を人体から脱血したり返血したりするための患者様側の出入り口のことをバスキュラーアクセスといいます。

 血液透析の患者様にとってバスキュラーアクセスは生命線であり、最も適したものは浅いところにある表在の自分の皮静脈(自己血管)を利用した内シャント作成が第一選択です。なぜなら、一般的に人工血管を利用したシャントや透析用のカテーテルという管の挿入・留置は、自己血管内シャントと比べて、シャント感染のリスク上昇や(自分の体にとって異物のため)その他の合併症が多くなること、長期開存率が劣ること(長持ちしにくい)、更には生命予後が不良であることなどが報告されているからです。

 自己血管内シャントに関して、より多くの透析の針の穿刺部位の確保(基本的には内シャント作成部位より末梢側(手先側)では充分に血液を取り出すことができないため、中枢側(心臓側)しか透析で使用できません)、また将来的なシャント再建に備えて血管をより温存するため(穿刺により血管が傷んだり、狭窄して細くなったりして閉塞すると、新しく作り直す必要になる場合がありますが、一般的には前回の作成部位より末梢側に作り直すことはできず中枢側での作成となり、難しければ対側(反対の腕)に作ることなります。自己血管に乏しければ人工血管やカテーテルが必要になります)、可能な限り末梢側から作成することが望まれ、海外の多くの学会のガイドラインでもそれを推奨しています。わかりやすくいうと、血液透析を長く続けていく上において、自己内シャントを作れる部位はある程度限られており、シャントトラブルにより透析で使用できる箇所は減っていきます。すなわち、特に一番初めに作成する自己内シャントの部位が短期的にも長期的にみても非常に重要になってくるということです。

 自己血管内シャント作成の最も典型的な部位は、前腕遠位(手関節よりやや中枢側)であり、更に末梢部位として知られているのは解剖学的タバコ窩(親指の付け根のくぼみ)でのタバチエール内シャントでした(J Urol Nephrol. 1969年)。
 我々の研究室では私が主導となり、更に上肢における最も末梢部位である手背(手の甲側)の第一指間(親指と人差し指の間の水かきの部分)で、最も末梢の静脈である手背の第一背側中手静脈を利用した自己内シャントを作成する術式(論文6)、およびその亜型の術式(第二、三背側中手静脈を利用:論文4、2。第二背側中手静脈を利用したタバチエール部位でのシャント再建:論文7)の発案とその有用性を世界で初めて報告しております。この手術には、術後心不全やsteal症候群(指先の血流が減ってしまうことにより潰瘍形成などの虚血症状を引き起こす病気)のリスク低減、および術後の傷も約1.5㎝と非常に小さく創感染のリスク減少なども期待できるなどのメリットがあります(参考画像:図1、図2)。

図1の画像を表示する
(症例写真を含みますので、ご注意下さい)

 話は変わります。自己血管に乏しければ(自己内シャント作成しても長期透析により荒廃する場合があります)人工血管やカテーテルが必要になりますが、できれば自己血管が望ましいのは上述のとおりです。 特にこれまで重症の感染症に罹患したことがある方などは、腎不全で透析中の方はもともと易感染性(感染に対して弱い状態)であり、なおさら避けたいと考えるのが一般的です。
 上腕(二の腕)にある上腕動脈と、それに伴走する普段はシャントとして利用することがない深い所にある静脈(上腕静脈)による動静脈作成し、その上腕静脈を表在化する方法(皮下近くの浅い場所まで持ち上げる方法)は1983年に初めて報告されており(World J Surg.)、最後の自己内シャント造設の選択肢の一つとされていますが、日本では施行している施設はそう多くありません。それは肘部から腋窩までの広範囲な切開が必要であり比較的侵襲が大きいこと、それにともない透析で使用できるまでの期間が長くなってしまうこと(海外だと平均で2-3ケ月と報告)などが理由と考えられます。
 我々の研究室では私が主導となりこの術式を発展させ、肘部において5-6㎝程度の短距離切開で上腕動脈-上腕静脈内シャント造設、およびその際に上腕静脈だけではなく上腕動脈を含めた表在化を行う術式の発案と臨床研究を行い、その有用性を世界で初めて報告しております(論文3。参考画像:図3) 。

図3の画像を表示する
(症例写真を含みますので、ご注意下さい)

この術式のメリットとして、侵襲が少なく術後約2週間程度で使用できることや、透析で使用する上腕静脈が閉塞などで使用困難となった場合にバックアップとして表在化していたシャントではない上腕動脈を利用することができるという事が挙げられます(図では上腕動脈で問題なく脱血して透析できることを確認するため使用しています)。

 以上、取り留めもなく長文になってしまいましたが、ここまでお付き合い頂き誠にありがとうございます。お伝えしたかったことは、私はこれまで内シャント造設を行うにあたり、いかに人工血管ではなく自己血管で対応するか、そして一日でも長く患者様に自分の血管で血液透析をして頂くかを最大の目標にして日々バスキュラーアクセスの診療をして参りました。しかし、もちろん自己血管より人工血管やカテーテルでの対応が望ましい患者様がいらっしゃるのも事実です。 また、ここで説明させて頂きました手術に関しまして、特殊な手術のように思われるかもしれませんが、通常の保険診療内で行う手術になりますので、通常の内シャント造設の費用以外に特別な費用が追加になることはございません。

 現在、当院では手術を行っておりませんが、これまでの知識と経験を生かしてバスキュラーアクセスの評価を行っております。一般的な各種バスキュラーアクセス関連手術(内シャント造設術、動脈表在化、経皮的シャント拡張術、短期・長期留置カテーテル挿入など)を含めまして、診察を希望される方は、お気軽にご来院下さい。

諸熊医院 院長 髙島毅

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